ファッションの世界に足を踏み入れると必ずと言っていいほど耳にする名前、ヴァージル・アブロー。
人気ブランド「Off-White(オフホワイト)」の創設者であり、あの「Louis Vuitton(ルイ・ヴィトン)」のメンズデザイナーも務めたファッション界の革命児でした。
しかし、残念なことに彼は2021年、41歳という若さでこの世を去っています。
さて、この記事では、ヴァージル・アブローの経歴から彼が遺した伝説のデザインなどについて徹底解説していきたいと思います。
1. ヴァージル・アブローとは?ファッション界の革命児
ヴァージル・アブローを一言で表すなら「ストリートとラグジュアリーの壁を壊した天才」です。
これまでのファッション業界には、ストリートファッションとラグジュアリーブランドの間には明確な境界線がありましたが、ヴァージルはその境界線をあえて曖昧にし、ミックスさせることで世界的な大ブームを巻き起こしたのです。
この章では、ヴァージルアブローとはどんな人物なのかを3つのポイントに分けて紹介していきたいと思います。
1-1.建築家からデザイナーへ転身した異色の経歴
「ファッションデザイナー」と聞くと、専門の服飾学校を出ているイメージが強いですよね?
しかし、ヴァージル・アブローは、大学で土木工学を学び、大学院では建築学の修士号を取得している経歴を持っています。
彼がデザインするアイテムが工業的で構築的な美しさがあるのは、建築の知識がベースにあるからと言っても過言ではないでしょう。
服作りにおいて、パターンの構造やグラフィックの配置を建築図面のように捉える彼のスタイルは当時のファッション業界にとって非常に新鮮な驚きでした。
1-2.既存の概念を壊す「3%のルール」
ヴァージル・アブローが「すごい」と言われる理由の一つに、独自のクリエイティブ理論があります。その中でも特に有名なのが「3%のルール(The 3% Approach)」です。
「既存のデザインを”3%”変えるだけで、それは新しいデザインになる」
ゼロから全く新しいものを作るのではなく、既にある名作(例えばナイキのスニーカーなど)にわずかなエッセンスを加えるだけで、全く新しい価値を生み出せるという考え方です。
この手法は「引用」や「サンプリング」とも呼ばれ、ヒップホップカルチャーにも通じる考え方のひとつ。彼は数々の名言を残していますが、この論理的かつ効率的なアプローチこそが、多くの若者やクリエイターを熱狂させた理由でした。
1-3.早すぎる別れ…死因と世界中に与えた衝撃
飛ぶ鳥を落とす勢いで活躍していたヴァージルですが、2021年11月28日、世界中に衝撃的なニュースが走りました。
死因は「心臓血管肉腫」。極めて稀な種類のがんでした。
彼は2019年に診断を受けてから、闘病の事実を公表せず、亡くなる直前まで精力的に仕事を続けていました。ルイ・ヴィトンのショーやオフホワイトの新作発表をこなしながら、人知れず病と闘っていたのです。
41歳というあまりにも早すぎる死に、世界中の著名人やファンが悲しみに包まれました。しかし、彼が遺した情熱は今もなおファッションシーンに多大な影響を与え続けています。
2. ヴァージル・アブローの経歴:ストリートからラグジュアリーの頂点へ
建築を学んでいた彼が、なぜファッション界のトップになれたのでしょうか?
彼のキャリアには確かな戦略と情熱がありました。
この章では、ヴァージルアブローの経歴について解説していきたいと思います。
2-1. カニエ・ウェストとの出会いと「PYREX VISION」
ヴァージルのキャリアを語る上で外せないのが、アメリカのHIPHOP界のカリスマ、カニエ・ウェスト(現:イェ)との出会いです。
2人は2009年に「FENDI(フェンディ)」でインターン生として一緒に働いていました。
当時のヴァージルはまだ無名でしたが、カニエのクリエイティブ・ディレクターとしてアルバムのアートワークやステージデザインを手掛けるようになります。
その後、ヴァージルは自身の最初のプロジェクト「PYREX VISION(パイレックス・ヴィジョン)」を立ち上げます。ラルフローレンの古着のシャツにロゴをプリントしただけのアイテムでしたが、インスタを中心に爆発的にヒット。
また、彼は自身の活動をまとめた本(アートブック)を出版するなど、服だけでなく「文化」としてファッションを発信し続けました。
2-2. 世界的ブームを巻き起こした自身のブランド「Off-White」
2013年、満を持して立ち上げたのが「Off-White(オフホワイト)」です。
・一目でわかる斜めストライプ(ダイアゴナル)のロゴ
・服に付けたままにするプラスチックタグ(結束バンド)
・あえて引用符で囲むダブルクォーテーションのデザイン
これらのアイコニックなデザインは世界中の若者を熱狂させ、一気にトップブランドの仲間入りを果たしました。
2-3. ルイ・ヴィトン メンズ・アーティスティック・デザイナー就任
2018年、ファッション界に激震が走ります。
世界三代ブランドのひとつであるルイ・ヴィトンのメンズ・アーティスティック・デザイナーに、ストリート出身のヴァージルが大抜擢。
デビューショーのフィナーレで、師であるカニエ・ウェストと抱き合って涙を流したシーンは、今でもファッション史に残る名場面として語り継がれています。
彼はルイ・ヴィトンに「ストリートの感覚」を持ち込み、ブランドを若返らせることに成功しました。
2-4. 日本の若き才能「YOSHI」との交流と親日家としての一面
たまたまインスタでYOSHIを見つけたヴァージルは、その独自のファッションセンスに惚れ込み、自身のブランドのモデルに抜擢したり、一緒に写真を撮ったりと交流を深めました。
年齢や国籍、知名度に関係なく「才能があればフックアップする」というヴァージルのフラットな姿勢がよく分かるエピソードです。
2-5. 病との闘いの中で描いた「最後のデザイン」
2021年に彼が亡くなった後も、彼が手掛けていたプロジェクトは「最後のデザイン」として世に出され続けました。
ルイ・ヴィトンの2022年春夏コレクションや、メルセデス・ベンツとのコラボレーションカー「Project MAYBACH」など、闘病中とは到底思えないほどのクリエイティビティを発揮していました。
最後までデザインすることを止めなかった彼の魂は、これらの作品の中に生き続けています。
3. ヴァージル・アブローが生み出した人気アイテム5選
ヴァージル・アブローが手掛けたアイテムは、発売されるたびに争奪戦となり、今では定価の何倍もの価格(プレ値)で取引されているものが多くあります。 ここでは、彼のデザイン哲学が詰まった、絶対に知っておくべき5つの傑作を紹介します。
① The Ten:NIKE × Off-White エアジョーダン1

スニーカー史の中でも伝説のコラボレーションが「The Ten(ザ・テン)」シリーズです。
ナイキの名作スニーカー10足をヴァージル流にリメイクしたこのプロジェクトの中でも、特に人気なのが「エアジョーダン1」です。
「完成されたデザインを一度解体して再構築する」という手法で、世界中のスニーカーヘッズを熱狂の渦に巻き込みました。
② Off-White:インダストリアルベルト

街中で、腰から黄色い長いベルトを垂らしている人を見たことがありませんか? あれこそが、オフホワイトのアイコン的アイテム「インダストリアルベルト」です。
工事現場で使われる工業用の吊り上げベルトからインスピレーションを受けて作られました。
異常な長さが特徴で、あえてダラリと垂らして見せるのがこのベルトの正解スタイル。「工事現場の道具をおしゃれアイテムに変える」という、ヴァージルの遊び心が爆発したアイテムです。
③ Louis Vuitton:ソフトトランク

ルイ・ヴィトンの原点である「旅行用トランク」を、現代のストリートスタイルに合わせてアップデートしたのが「ソフトトランク」です。
本来は硬くて重いトランクを、柔らかいレザー素材にし、ストリート感あふれるマットなチェーンをプラスしました。
ルイ・ヴィトンでの彼の功績を象徴するバッグとして、現在も定番アイテムとして愛され続けています。
④ Louis Vuitton:LVトレーナー

「ルイ・ヴィトンのスニーカーといえばこれ!」という地位を確立したのが「LVトレイナー」です。
かつては「ハイブランドのスニーカー=奇抜で履きにくい」というイメージもありましたが、ヴァージルは自身が愛する90年代のバスケットボールシューズの要素を取り入れました。 ラグジュアリーな素材を使いながらも、シルエットはあくまでストリート。カジュアルな服装にも合わせやすく、多くのセレブやアーティストが愛用しています。
⑤ IKEA × Virgil Abloh:”KEEP OFF” ラグ
ヴァージルの活躍はファッションだけにとどまりません。あの家具量販店IKEA(イケア)とのコラボも大きな話題になりました。
中でも有名なのが、ペルシャ絨毯に大きく"KEEP OFF"(立ち入り禁止)とプリントしたラグ。 「家の中に敷くラグなのに、立ち入り禁止?」という強烈な皮肉とユーモアが込められています。
手頃な価格のIKEA製品でありながら発売日は長蛇の列ができ、即完売。
インテリア業界にもその名を轟かせた瞬間でした。
4. ラグジュアリー×ストリートの火付け役、ヴァージル・アブローが遺したもの
いかがだったでしょうか?
今回は、ヴァージル・アブローという人物について徹底的に解説させていただきました。
ストリートキッズでも、努力とセンスがあれば歴史あるブランドのトップに立てるという夢を、世界中の若者に見せてくれたヴァージルアブロー。
これからファッションをもっと楽しみたいと思っているなら、ぜひヴァージル・アブローがデザインしたアイテムを手に取ってみてください。
ファッションはもっと自由でいいんだという彼からのメッセージが感じ取れるはずです。








