「昔のベルルッティも渋くて素敵だけど、最近のデザインはより洗練されていてカッコいい」
店頭やSNSでアイテムを見かけて、そう感じている方は多いのではないでしょうか?
ベルルッティの変化は"クリスヴァンアッシュ(Kris Van Assche)"という一人の天才デザイナーがもたらした革命によるもの。
彼はディオール・オムの黄金期を支え、その後ベルルッティにストリートとモードの息吹を吹き込んだ現代ファッション界の重要人物です。
さて、本記事では、クリスヴァンアッシュの華麗な経歴から気になる現在、そして彼が手がけた名作アイテムまでを徹底解説。
彼の軌跡を知れば、今気になっているそのブランドが、さらに魅力的に見えてくるはずです。
1. クリスヴァンアッシュとは?
彼が世界中のファッショニスタを熱狂させ続けているのは一体なぜなのでしょうか?
まずはクリスヴァンアッシュのルーツと独自のブランド背景について解説していきたいと思います。
1-1. ベルギー出身の世界的ファッションデザイナー
クリスヴァンアッシュ(Kris Van Assche)は、1976年生まれ、ベルギー出身のファッションデザイナーです。
ファッション界の超名門として知られる「アントワープ王立芸術アカデミー」を卒業後、パリを拠点に活動を開始。彼の名前が一躍有名になったのは、やはり世界的なビッグメゾンのトップを歴任した実績によるものでしょう。
特に「ディオール・オム(Dior Homme)」と「ベルルッティ(Berluti)」という、誰もが知るラグジュアリーブランドのアートディレクターを務めた経歴は、彼の実力が本物であることを証明しています。
1-2. 自身の名を冠したブランド「KRISVANASSCHE」の軌跡
彼はメゾンの仕事と並行して、2005年から2015年まで、自身の名を冠したブランド「KRISVANASSCHE(クリスヴァンアッシュ)」を展開していました。
フォーマルなテーラリングにワークやスポーツの要素をミックスさせたスタイルは、当時のメンズファッション界に新鮮な風を吹き込みました。
現在はブランドを休止していますが、その10年間の軌跡は今も語り継がれており、中古市場でも根強い人気を誇っています。
1-3. ミニマルかつ構築的なデザイン
クリスヴァンアッシュのデザイン最大の特徴は、クラシックとモダンの絶妙な融合にあります。
・無駄を削ぎ落としたミニマルな色使い
・建築的で美しいシルエット
・ストリートやスポーツの要素を取り入れた実用性
これらをバランスよく組み合わせることでキメすぎないけれど圧倒的に上品なスタイルを確立しています。
最近のベルルッティを見て「今までの重厚感とは違う、軽やかでカッコいい雰囲気」を感じたなら、彼の構築的な美学が注入された結果と言えるでしょう。
2. クリスヴァンアッシュの経歴
彼が歩んできた道のりは、まさに21世紀のメンズファッション史そのものと言っても過言ではありません。
修行時代から現在に至るまで、その華麗なキャリアを時系列で紐解きます。
2-1. イヴ・サンローランでの修行とエディ・スリマンとの出会い
クリスヴァンアッシュのキャリアの本格的なスタートは1998年。
パリに移り住んだ彼は「イヴ・サンローラン リヴ・ゴーシュ(Yves Saint Laurent Rive Gauche)」のメンズラインで働き始めます。
そこで運命的な出会いを果たしたのが、当時のメンズ部門を率いていたエディ・スリマン。クリスはエディの右腕として経験を積み、その後エディと共に「ディオール・オム」の立ち上げにも参加。
アシスタントとして、モード界の最前線でその才能を徹底的に磨き上げました。
2-2. ディオール・オム(Dior Homme)のアートディレクター就任
2007年、エディ・スリマンの後任として、クリスヴァンアッシュはディオール・オムのアートディレクターに就任。
カリスマ的な人気を誇ったエディの後任というプレッシャーは計り知れませんでしたが、彼は独自のスタイルでブランドを進化させました。前任のエディが作った「ロックで極細」なスタイルに対し、クリスは「よりリアルで、着心地の良いエレガンス」を提案。
シルエットに少しゆとりを持たせ、ソフトなテーラリングを取り入れた彼のコレクションは、多くの男性から支持され、約11年という長期にわたりブランドを牽引しました。
2-3. 自身のブランド休止と新たな挑戦
ディオールでの仕事が多忙を極める中、2015年に彼は自身のブランド「KRISVANASSCHE」を休止する決断を下します。
「一つのことに集中したい」という彼の選択は多くのファンに惜しまれましたが、結果としてディオール・オムでの仕事の密度を高め、そして次の大きなステージへの布石となりました。
2-4. ベルルッティ(Berluti)での革命的なアプローチ
2018年、彼はベルルッティのクリエイティブ・ディレクターに就任。
彼の仕事は、ブランドにとってまさに「革命」でした。
・伝統的な革の染色技法「パティーヌ」をネオンカラーで表現
・ブランドロゴの刷新
・スニーカーやストリートウェアの拡充
あくまで老舗のレザーブランドというイメージが強かったベルルッティを、トータルラグジュアリーブランドへと進化させたのです。
「昔のデザインも好きだったけど、最近のデザインはもっと好み」と感じる方が多いのは、彼が伝統をリスペクトしつつ現代的な解釈を加えたからに他なりません。
2-5. クリスヴァンアッシュの現在
2021年に惜しまれつつベルルッティを退任した後も、彼の動向には常に注目が集まっています。
現在は自身のインスタグラム等で精力的に発信を続けており、アートや建築への造詣を深めながら、新たなクリエイションの準備を進めています。
2023年には新ブランド「LAJOIEDHIVER(ラジョワ・ディヴェール)」に関わる動きも見せており、常に進化を続ける彼が次にどのようなファッションを見せてくれるのか、世界中が期待しています。
3. クリスヴァンアッシュが生み出した人気アイテム4選
ここからは、彼のデザイン哲学である「クラシックとモダンの融合」が最も色濃く反映された、代表的なアイテムを4つ厳選してご紹介します。
①ブランドの代名詞「マルチレース・ハイカット」
自身のシグネチャーブランド「KRISVANASSCHE」で爆発的な人気を博したのが、この「マルチレース・スニーカー」です。
アッパーを覆い尽くすかのように複雑に絡み合った無数の靴紐(レース)と、着脱を容易にするバックジップが特徴の一つ。スニーカーでありながら、まるでブーツのような重厚感と存在感を放ちます。
シンプルになりがちな大人のカジュアルスタイルに強烈な個性を与える一足として、ブランド休止後の現在でも中古市場で高値で取引される伝説的な名作です。
②構築的な美学が宿る「テーラードスーツ」
ディオール・オム時代に彼が確立したスーツスタイルは、まさに「着る建築」とも呼べる芸術品です。
極端に細かったエディ・スリマンのスタイルに対し、クリスは「動きやすさと美しさの両立」を追求。 無駄な装飾を削ぎ落とし、身体のラインを美しく見せるカッティングは、ビジネスからパーティーまで幅広く対応。
特にジャケットの襟のシャープさや肩周りの構築的な美しさは、30代・40代の男性の品格を底上げしてくれる一着です。
③伝統と現代の融合「スクリット」ウェア
ベルルッティの象徴である、カリグラフィー(文字)が刻まれたスクリット柄。
従来は革靴や革小物に使われるのが一般的でしたが、クリスはこの伝統柄を大胆にも洋服に採用しました。
ダウンジャケットやニット、パーカーなどにスクリットをあしらうことで、「ベルルッティ=靴」というイメージを刷新。一見派手に見えがちな柄を計算された配置と色使いにより、嫌味のない大人のラグジュアリーストリートウェアとして成立させました。
「最近のベルルッティはアパレルもかっこいい」と思わせた立役者と言えるアイテムです。
④名作を再解釈した革靴「アレッサンドロ エッジ」
創業以来のアイコンシューズであるホールカットシューズ「アレッサンドロ」を、クリス流に大胆に解釈したのが「アレッサンドロ エッジ」です。
継ぎ目のない流麗なアッパーデザインはそのままに、ソール部分を角張った幾何学的な形状にアレンジ。 クラシックな革靴の美しさにモードな鋭さが加わり、「スーツにもデニムにも合う最強の一足」として完成されています。
伝統を重んじつつも、古臭さを一切感じさせない、彼の手腕が光る傑作です。
4. 変革をもたらすデザイナー、クリスヴァンアッシュ
いかがだったでしょうか?
今回は、多くのブランドに変革をもたらすデザイナー、クリスヴァンアッシュとはどんな人物なのかについて解説させていただきました。
ブランドが持つ長い歴史と伝統を深く尊重しながら、そこに「ストリート」や「現代性」という新しい空気を吹き込み、ブランドの価値観そのものをアップデートする変革者です。








